福井県坂井市総合政策部企画情報課及び、一般社団法人三國會所の方にお話を伺いました。会場は倉庫をリノベーションした「マチノクラ」です。
今回の視察対象である「三國湊町家PROJECT」の背景にある課題は、人口減少、空き家の増加、活力の低下、そして伝統ある三國湊の景観喪失です。かつて北前船の往来により日本海屈指の湊町として栄えた三国ですが、鉄道の開通とともに急激に衰退していきます。戦後は開発を免れた「かぐら建て」と言われる伝統的建築物の解体も進み、景観の維持が困難になってきました。そんな中持ち上がったのが三国のシンボルともいえる「旧森田銀行(国登録文化財)」の取り壊し計画です。これに反対した住民運動がきっかけになり、伝統的な建築物の活用や、まちなみ保存が進んでいくことになります。
◆三國湊町家PROJECT → http://mikunikaisyo.org/machiya/

146

改修活用事業者を募集していた旧大木道具店

144

三國湊町家PROJECTのホームページ

 

活動の主体となっているのは行政ではなく市民です。特に「一般社団法人三國會所」(みくに歴史を生かすまちづくり推進協議会が前身)の存在が果たしている役割は大きいようです。この組織は三国町商工会と観光協会が設立し、「三國湊帯のまち流し」などのイベントを実施、「町並み塾」の開催、レンタサイクル駅の設置、まちづくりマスタープランの作成など多岐にわたるまちづくりを主体的に行っています。ホームページを見るとそそのパワーをひしひしと感じます。そんな三國會所の重要な事業が「三國湊町家PROJECT」です。
◆一般社団法人三國會所 → http://mikunikaisyo.org/
 
三國會所が中心となって、以下の流れで空き家の利活用を進めています。
 ①活用できそうな空き家を見つける
 ②家主と三國會所が賃貸契約
 ③三國會所が改修工事実施
 ④入居者と三國會所が賃貸契約
 ⑤賃料の差額で町屋バンク運営と次物件の改修
現在のところ、H25~H27年の3年間で6件の空き家を利活用しています。

三國湊町家PROJECT全体としますと、他にも街なみ環境整備事業で道路舗装、ポケットパーク整備、案内板設置、修景補助なども行っています。総事業費は170,000千円(内県補助100,000千円)で、行政との連携という部分では、首長の理解と景観条例の制定など法的な後押しもあったようです。

145

アレックス・カー氏プロデュースのゲストハウス

さて、今回の視察から見えたことは大きく2点です。

1点目は<空き家の利活用と伝統的まちなみの維持には市民の力が必要不可欠である>ことです。あらためて実感しましたが、行政ではここまでのことはできません。活用できそうな空き家を見つけ、交渉し、修繕し、必要な方に情報を届ける。きめの細かい作業が必要になります。空き家ごとに貸せない・売れない理由があり、それを解決する方法も違います。普段から地元に根差した信頼関係がなければ、こういった根深い問題をクリアすることはできません。また、「三国まちづくりビジョン」を策定した学生の力も大きいように感じました。
 

2点目は<必要な時に行政がどれだけ手助けをすることができるか>です。築20年位ならまだしも、50年、100年ともなると修繕には大変なお金がかかります。また街並み全体のイメージを左右する道路やサイン、ポケットパーク、駐車場などの整備にも大きな財源が必要になります。そういった部分に関しては、将来の可能性、まちにとっての重要性などを総合的に判断して、投資すべきところは積極的に行うべきだと思います。また、タイミングも重要で、市民が望んでもいないときに、望んでもいない整備をしても市民不在のまちづくりとなり長続きしません。また、初期はどうしてもお金がかかるもの。まちづくりの機運を高めるためにも、効果を視える化するためのシンボルが必要です。三国の場合は「旧森田銀行」や「石畳舗装」がその役割を果たしていたようです。

147

まちづくりのシンボルとも言える旧森田銀行

148

リノベーションされた古民家はミニ盆栽店に


ふりかえって足利市には空き家が約5500戸あります。空き家の利活用を通じたまちの課題解決を行うためにも、①それを行う機運をつくること②それを行う市民を育てること③行政も必要に応じて協力することが必要だと考えます。
戦後の経済成長で、足利の伝統的にな建物は次々に取り壊されていきました。これ以上まちの個性を失わせないため、限られた財源の中で空き家という資源を有効に活用するため、以上のような取り組みを参考に議会にできることを模索していきたいと思います。