会派視察初日は広島県尾道市で「空き家の利活用」について「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」の新田悟朗専務理事からうかがいました。会場は同法人が運営する「みはらし亭」というゲストハウスからはじまり、傾斜地の再生の現場を見ながらもうひとつのゲストハウス兼カフェの「あなごのねどこ」に移動し、説明と質疑をさせていただきました。
 
まず尾道市の空き家状況ですが、人口14万人に対して7,353件(H27年実態調査)と足利市(※1)と比較しても多い傾向にあります。その理由として34%という高い高齢化率が考えられます。また駅周辺の観光地となっている傾斜地エリアは、車が入れないため現在の基準では取り壊すと、新しい建物を建設できないという大きな課題も抱えていました。このままでは風光明媚な尾道独自の景観を維持することができないという状況に対し、豊田雅子代表理事が中心となりNPO法人法人尾道空き家再生プロジェクトを設立しました。最初は自分の使う空き家の改修から始まりましたが、多くの方々と連携し次々に空き家を魅力的に再生していきました。

尾道中心地の特徴として戦災や災害がなかったため、貴重な近代建築が残っていることがあげられます。偽洋風建築や明治、大正時代の看板建築、洋館など、それだけで魅入られてしまうような建築物が散見されます。訴求力の高いリノベーションを実現できている原動力は、こういった魅力的な土地と魅力的な建築物、効果的な再生支援にあると感じました。特に大規模な再生となったのが、会場となったゲストハウス「みはらし亭」と「あなごのねどこ」です。こうした宿泊、飲食事業や移住・空き家再生の有料相談、講演、物販などの事業を展開し約30名の雇用も生み出しています。2008年からは尾道市の空き家バンク運営を受託し、これまでの成約物件は80件、登録者も1100名に上っています。

 

急傾斜地に所狭しと建物が並ぶ


通称ガウディハウスは観光や撮影のメッカ

 
今回の視察で感じたのは、空き家再生を担う同NPO法人のように、行政に極端に頼るのではなく、積極的に事業展開をして自分で稼ぐ力をつけなければ、事業は拡大も加速もしないということです。そのために、実績を積み重ね、様々なコンテンツや成功事例で仲間や人材を増やし、そのうねりを伝播しています。新田氏の話では代表のリーダーシップと行動力が大きかったとのことですが、それだけでなく尾道という素材もプロモーションとして有利に働いたように感じます。空き家バンクについても中心地以外では展開していないそうです。それもある意味、目に見える範囲で効果を出し、地域のことを理解できる範囲内に集中するには良い選択だったのかもしれません。
 

足利市でも空き家再生事業は市民の力を借りて、少しずつですが進んでいます。ここで核となる民間団体が「いかに長く」「いかに効果的に」活動できるかを考えなければ、成果も出ないし、市民力の浪費になってしまいます。このあたりをもう少し民間団体の方をはじめとした関係する方々と意見交換をする必要があると感じました。

 

擬洋風建築が多いのも尾道の特徴

銭湯をリノベーションした店舗

 
※1・・足利市は人口14.8万人で空き家数が5,500件(H25年総務省抽出調査)