大分県日田市の「日本遺産咸宜園と豆田町」について、咸宜園教育研究センターの方にお話をうかがいました。咸宜園は足利市の足利学校とともに日本遺産「近世日本の教育遺産群~学ぶ心・礼節の本源~」に認定されています。H24年には水戸市、備前市とともに4市で教育遺産世界遺産登録推進協議会を設立しています。今後、4市の連携を進め、日本遺産認定というチャンスを生かしていくために、日田市の取り組みや課題を学ぶことにしました。

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史跡咸宜園跡

日田市の日本遺産構成要素は咸宜園、豆田町などとなっています。咸宜園は国指定史跡で現存する建物を修復し、建物跡地には礎石などを整備しています。隣接する咸宜園教育研究センターは、咸宜園と咸宜園を開いた廣瀬淡窓についてのガイダンス施設、学びのスペース、世界遺産登録推進室も併設した事務局としての機能があります。

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ガイダンス機能を持つ咸宜園教育研究センター

日本遺産認定を活用した事業では、本市と同様に文化庁からの助成事業(日本遺産魅力発信推進事業)と市単独事業があります。なかでも参考にすべきと考えたのは「日本遺産こどもガイド事業」です。市内2カ所の小学校に募集をかけ18名のこどもガイドが誕生しました。こどもたちは秋と春のイベントで大人たちに向けてガイドを実施し、観光客やこども達の家族を含めた市民に、咸宜園や豆田町の魅力を伝えるお手伝いをしました。予算規模こそ23万円程度ですが、日本遺産の周知や、郷土愛の醸成、観光客の満足度上昇に大きな役割を果たしたようです。そのほかにも日本遺産のロゴを前面に出したサインを設置し、日本遺産自体のブランディングを行ったり、活用のための市民との懇話会(日本遺産活性化懇話会)を設置し官民協働を促したりしています。

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こどもにも分かりやすく学べる工夫

 座学の後、咸宜園教育研究センター、史跡咸宜園跡、重要伝統的建造物群保存地区に選定されている豆田町を現地視察させていただきました。咸宜園の整備は丁寧になされていて、内部の資料も見やすい印象でした。教育研究センターがガイダンス施設の役割を果たしていて、咸宜園の価値を深く理解することができます。また、廣瀬淡窓に対する尊敬の念を持たれている市民が多いようで、先ほどの懇話会設置も豆田町住民は非常に好意的に受け止めていただいたようです。

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道路幅が狭いところは石畳が敷かれている

今回の視察のもうひとつの目的であった、重伝建地区豆田町のまちづくりと景観政策についても参考になる部分がありました。豆田町は日田市の城下町で豪商が軒を並べる豊かなエリアでした。河川や水路が流れる河岸としての役割もあり、それがまちの風情をより魅力的にしている印象でした。重伝建地区に選定されるだけあって、江戸、明治の建築物(主に居蔵造とよばれる見世蔵)が多く残り、現在も店舗として使われています。重伝建制度の助成による修景補助が計画的になされているようで、常にどこかで工事が行われ、良い意味でまちが新しくなっている印象を与えます。まちに変化があるというのは、観光客だけでなく市民のマインドも向上させる効果があると感じました。

景観を意識した変圧器

景観を意識した変圧器

 
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地元の若い世代も楽しめる店舗が多い印象

また、電柱の地中化も実施されていました。「足利市の石畳通りでは道が狭くてできないのでは」との意見もありましたが、豆田町では変圧器を空き地や水路の上に蓋をして設置することで実現していたため、調査研究して本市の参考にすべきだと考えました。
 
日本遺産を活用した観光振興にも、重要伝統的建造物群保存地区などのまちづくりにも住民の協力が不可欠で、協働体制をつくることで息の長いサステイナブルな事業になっていくのだと改めて実感した視察となりました。

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日田市にUターンしたデザイナー平川弥生さんの作品 「I」の部分に自分が入って完成